アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

【特集インタビュー】”付加価値としての作家性”日本のクリエイターが世界で生きていく唯一の方法。[ダイノサトウ]

アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

ダイノサトウ氏。国際GIFアニメアワード2014では「性的な魚」シリーズで圧倒的な完成度でもって審査員賞を受賞された。禁忌に触れてしまった感覚に襲われる作品であり、覗き窓からこっそり盗みみるようなその表現はどことなく背徳感を感じさせた。性的な魚達の営みはGIF表現と特に親和をし、繰り返し繰り返し続けられる”それ”はより一層作品にリアルを与えていた。武蔵野美術大学や京都造形芸術大学でアニメーションやCGを指導をし、国際コンペティションにも多数入選している。

そんな海外の映像業界にも精通したダイノサトウ氏だからこそグローバル化した映像業界で生きていく上で今後重要になるのは「付加価値としての作家性」だと言う。人件費が圧倒的に安い国々と日本のクリエイターも戦わなくてはならない、その中でクリエイターが工業製品に成り下がってはいけないというのは誰もが思う。商業映像においては、作家性(自分の希望)と現実(クライアントの希望)の葛藤の中で戦いながらも、いかに「アルファなモノ」を創りだすかが重要だと語るダイノサトウ氏。インタビューでは、これまでのキャリアを振り返りながら、グローバル化した映像業界に込められた思いについてもたっぷりと語ってもらっている。これまで聞いたことのないような、貴重なエピソードの数々を堪能して頂けたら幸いだ。

 

ダイノサトウ

” 性的な魚 © ダイノサトウ ”
” 性的な魚 © ダイノサトウ ”

1968年 東京都出身。 東京理科大学建築学部。東放学園専門学校を経て、CGアニメーションの道へ。CG制作会社を1996年に退社し、フリーランスのアニメーター、CGクリエーターとなる。主な作品に、TREEDOM(1999)、SCRAPLAND(2006)、あか あお ふたりで(2006)、カエルのタネ(2008)。2008年開催の、第12回広島国際アニメーションフェスティバルでは、ポスターならびにキービジュアルを手がける。「あか あお ふたりで」は 文化庁メディア芸術祭2007に於いて、審査員会推薦作品に、BIMINI2007(Latvia)では、ウィットと光覚賞(diploma for wit and light perception )を受賞。「TREEDOM」、「SCRAPLAND」は アヌシー、シナニマ、アニマムンディ、アニマドリッドなど、多くの国際コンペティションに入選し、ICA(ボストン)、ポンピドーセンターなどでも上映される。 また、「TREEDOM」は、短編映像作品を集めたDVD「openArt Short Film Selection #1 Party (epicレコードジャパン)」に収録されている。

国際アニメーションフィルム協会日本支部(ASIFA-JAPAN)会員武蔵野美術大学非常勤講師、京都造形芸術大学非常勤講師。

 

 

アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

■どうして映像制作に取り組むようになったのでしょうか?

映像が好きになるきっかけは、高校生の時に遡ります。吉祥寺にバウスシアター(2014年5月末閉館)という映画館があるんです。以前はよくマイナーな映画を沢山放映していたんです。その中で、海外のアニメーション特集に強く惹かれました。普段見るテレビアニメとは全く違う、コマ撮りなどの映像表現にすごく感動し、驚きましたね。

また、これはバウスシアターではなく、多分渋谷のユーロスペースだったと思うのですが、「The Brother from Another Planet」というインディペンデントのライブアクション映画を見ました。見て頂けるとわかるのですが、主人公の男の足を、鳥っぽくしただけで宇宙人と言い切る。これでSFなんだっていう衝撃(笑)。その当時、SFといえば「E.T.」や「スターウォーズ」でしたから、「The Brother from Another Planet」を見て、こういうやり方もいいんだって思えたんです。自分の中で表現の捉え方が音を立てて、変わった気がしました。ただ、自分が映像を作ることを考えた時、役者への演技指導、カメラ、照明スタッフへのディレクションというのは、自分には想像もできませんでした。実写もやってみたかったですけどね。ただその頃は機材が高価で。フィルムや現像代、映写機の事を考えると、高校生には無理でした。知識とお金を持っている人だけが、できる趣味でした。高校卒業後は大学の建築学科に進み、大学卒業後、映像の専門学校にいきました。卒業生の多くがテレビ局に行く学校でした。24歳の頃ですね。その中にCGコースがあって、そこから映像の世界に踏み出していった感じですね。

当初からテレビ番組のCGなどのお仕事をしていました。当時はむちゃくちゃマシンが高かったんですよ。。1994年、26歳とかそのくらいですかね。今のMacなら10台位買えちゃいますね。そこからどんどんPCやソフトの価格は下がって行きましたね。1996年、28歳に独立しました。フリーランスとしてですね。再来年には20周年ですねー。昔は周りにCGを出来る人がさほど多くなかったんですね。そもそもマシンがあるところが少なかったので、マシンがある場所へ仕事に行くってかんじでした。今で言うノマドに近いのかな、むしろ傭兵に近いのかも。そのころはゲームや展示会映像のCGモデリングや、アニメーションの仕事をしていました。ひたすらゲームの建物作ったりね。ただ、今もあまり変わっていませんけど。

 

■人生のターニングポイントになった作品はどのようなものでしょうか?

フリーになった後、しばらくして作った作品です。1999年ですね、「TREEDOM」というんですが、私の父U.G.サトーのポスターを動かすというアニメーション作品です。親子共作なんです。一度学生時代に取り組んだのですが、スキルや機材が整ったときに、もう一度作り直した、思い入れのある作品ですね。

 

 

TREEDOM ©U.G.サトー、ダイノサトウ
TREEDOM ©U.G.サトー、ダイノサトウ

 

 

■思い入れがある理由はどこにあるのですか?

今はインターネットでの応募がかなり普及していますが、当時は海外の映画祭の情報集めだけでも大変でしたよ。また出品用ビデオのフォーマットひとつとっても、ヨーロッパの映画祭では、日本のNTSC方式だと上映出来ないんです。PAL方式に変換する必要があるんですが、2、3本ビデオにダビングするだけで数万円かかりました。また、いくつかの映画祭では、出品料が必要なんですが、当時はPayPalなんてありませんでしたから、5000円支払うのに銀行の送金手数料で3000円ほど取られましたね。

そして幸いにも、この「TREEDOM」は、2000年にフランスの大きなアニメーションコンペティションAnnecy International Animated Film Festivalで入賞したんです。それをきっかけに各国の映画祭にお声をかけて頂けたんです。表現がバァーっと世界に広がっていく実感がありました、ドイツ、スペイン、ブラジル、オーストラリア、そしてアフリカのブルキナファソなんて言う国までにも。自分の作品がひとり歩きして行くのは、とても不思議でワクワクする気分でしたよ。

 

アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

■海外コンペティション等を経験されている上で海外との映像業界の違いなどございますか?

やはりアメリカの映画制作は色々な意味で興味深いですね。例えば、映像に銃の効果音を当てる際に、本物の銃をぶっ放して録音出来ちゃいますからね(笑)。ロケットの発射音も、ケネディ宇宙センターで、リアルに録音しているメイキングをが見た事がありましたが、そりゃ、リアルだよね。「ドーッ」って(笑)。 またCGに関してですと、キャラクターの動きにリアリティを追求するために、スクリーンには決して映らないキャラクター内部の骨格や筋肉を作り、それらを使ってアニメーションに反映させています。さらに、爆発、水しぶき、雪などの物理シミュレーションなどにも、時間とお金をきっちりかけてリアリティを追求した制作をしています。それらは、やはり世界規模でのマーケティングが可能である事が、一番大きい理由だと思います。

 

■今後の映像業界はどうなっていくと思いますか?

もともと、「リアリティー」を追求する3DCGの世界は、工業製品に近い存在だと思っています。もちろん、どう見せるか、何がかっこいいかなどを判断し、制作するには、クリエイティビティーは絶対必要です。しかし、現実の世界をモニター上に再現する事だけを考えると、図面と写真さえあれば、基本的に、だれでも制作可能なんです。例えば東京タワーや金閣寺のCGを作るのに、必ずしも日本人である必要はありません。資料とCGソフトさえあれば中国人でも、ブラジル人でも作ることは可能なんです。さらに、ハリウッドで特に顕著なCGの分業というシステム。仕事の専門性により工程を細かく分けています。キャラクターのモデリング、アニメーション用の骨組み設定、アニメーター、カメラの動き、ライティング、レンダリング管理、特殊効果、出来上がった素材すべての合成作業というように。さらに各々のセクションで監修するカメラディレクター、ライティングディレクターなんていう人達もいますね。そのすべてを統べるのが監督です。日本のアニメーション業界にもかなり似た構造があります。それは産業という側面から要求された、長時間の映像作品を効率よく作るための仕組みですから、なくてはならないものなんです。

そのため、車、電化製品の製造拠点と同様に、CGプロダクションも、人件費の安い国へ海外移転する例が増えています。このようなグローバル化は特にアメリカで顕著になっているようです。 同時に、工場において、産業ロボットが人間の仕事を代替していったように、映像、クリエイティブの世界ではプログラムが人間の仕事を代替し続けています。つまり、スマートフォンなどで、よく簡単に映像が作れるようになった!、便利!、楽チン!ということは、もはやお金の取れる仕事ではなくなったよ、と同じ意味なんです。だって数百円のアプリで作れちゃうんですから。

こういう状況に抗っていくには、クリエーター自身で、何かしらの付加価値で対抗するしかないと思います。多様な価値観、切り口、ビジネスモデルが必要になってくるでしょう

2000年代前半から、デジタル表現での仕事の裾野が大きく広がりました。1990年代の中頃に多くのCG専門学校が開校した影響です。それと 同時にマシンやソフトウェアの値段も一気に下がって行きました。2000年代中頃には、ADSL、FTTH網が世界的に発達し、国境を超えてのやりとりが スムーズになり、マシンもスキルも底上げされ、だれでもできる世界です。そういう意味で日本のみならず映像、デザインの方向性を考えていくって大事なんでしょうね。

 

アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

■ダイノサトウ氏の作品の魅力や表現の根源はどこにあるのでしょうか?

分かりません(笑)。見てる人の趣味ですよ。人は人が感じるように感じているんです。あまり気にしてないですね。特にインディペンデントな作品の時は「楽しく作る」ことと同時に「楽しんでもらう」ことですね。商業映像とは分けてあまり意識せずに創ろうと思ってます。

 

■今後の展望を教えて頂けますか?

気の向くままに創っていきますよ。その時、その時大切にしたいものを、楽しみながら創りだしていきます。ただそれがきちんと仕事になっていくと、また違った楽しみが生まれてくると思います。

 

” 性的な魚 © ダイノサトウ ”
” 性的な魚 © ダイノサトウ ”

 

■読者に対するメッセージをお願いします。

若い人はWEBでの表現が当たり前に存在しているじゃないですか、YouTubeがあるし、Vimeoがあるし、世界中の映像表現が簡単に見れる。そしてデバイスも安く、手軽になってどんどん裾野が広がってきました。消費者として考えると、とても面白い時代だと思います。無料で楽しめ、皆と共有し、少しのスキルでも容易に参加出来る。しかし、先ほどもお話したように、制作者、特に仕事としてやっていく場合、SNSによる手軽な公開、アプリによる簡易な制作といった、手軽さが逆に苦しめる事になっています。つまり、誰でも出来る手軽さゆえに、お金にならないのです。 また作家性と現実の葛藤も問題になります。仮に作家として自己表現を突き詰めていくとしても、生きていくにはお金が必要です。

商業映像に取り組む時、作家性を出そうとすると現実とぶつかることは常です。言い換えると、作家性(自分の希望)と現実(クライアントの希望)のギャップということになります。そのためにも、自分の軸足をどこに据えるか、仕事をメインに趣味的に楽しむか?、趣味を仕事にガチで戦うか。そういうスタンスを認識することも大切だと個人的には感じています。

また、昨今巷に溢れる二次創作に関してなのですが、WEBの世界において、SNS的要素とうまくマッチしていて、とても面白いと思います。しかし、二次創作とはあくまでも、オリジナルの世界観をもとにして構築された世界です。やはりオリジナル、アルファなモノを作っていかないと、新しい二次創作も生まれこないわけです。そういう意味でも、オリジナルを作り上げていくということは非常に大切で、大事にしなければならないことだと思います。もちろん、新しいキャラクター、新しい物語をつくる事も大切ですが、さらに根源的に、ストーリーテリングの新しい描写方法、WEB時代ならではの映像表現、もっと掘り下げて、線一本の描き方、ディスプレイにおける色の見せ方、物語の伝え方という、基礎的ですが、確実にお金にはなりにくいと思います。しかし、科学における基礎研究みたいなものとして、大切にしていく必要があると強く思います。

 

アニメーター・CGクリエーター「ダイノサトウ氏」

 

 

ご自身の創造性の原点から今後の映像業界に対しても語って下さったダイノサトウ氏。開発環境の低コスト化、そしてスマートデバイスの登場によりグローバル化した映像業界で生きていく上で今後重要になるのは「付加価値としての作家性」だと言う。「アルファなモノ」への追求。筆者も考えさせられる時間であった。

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